リスクがあるからやめる?

10年ほど前、あるショッピングセンターで、店内にお客様向けの託児所を設けるというアイデアが浮上しました。

今でこそお客様向けの託児所のあるSCは珍しくありませんが、当時としては画期的なアイデアでした。

そのSCは集客に苦労していました。1年前に反対側の駅前に新しいSCができてからはさらに客足が遠のきました。

この状況に危機感を感じたテナント同士が、定期的に会合を持つようになりました。

家族連れが多い土地柄から生まれたのが、ショッピングセンター内に託児所を設けるというアイデアでした。

7つのテナントが共同でデベロッパーに提案しました。

返事が来たのは2週間後。デベロッパーから返ってきたのはA4用紙20枚の報告書でした。

そこには、託児所ができない理由が山のように書かれていました。

私も見せてもらいましたが、施設の問題、金の問題、人の問題、運営の問題、法律の問題といろいろ書かれていました。

でも、本音は、「何かあったときに責任を負わされたくない」と言うのが明らかでした。

なぜなら、責任の問題についてだけ言及がなかったからです。リスクを負いたくないと言うのが見え見えな報告書でした。

しかし、商売なんて、みんな何らかのリスクを抱えているものです。

パソコン専門店の場合、トラブルでPCを持ち込まれることがよくあります。

それをサービスカウンターで調べるとき、うっかりデータを消してしまったら損害賠償を請求されるリスクがあります。

もちろん、店で調べたりせず、業者に修理に出す分にはそうしたリスクとは無縁です。

しかし、それでは家電量販店と同じです。

専門店とは、その商品しか扱ってないから専門店なのではありません。

その商品の専門家だから専門店と名乗れるのです。専門家でなければ看板に偽りありです。

専門家はリスクも背負うものなのです

食品を販売する店はもっとシビアで、食中毒を起こすかもしれないリスクを抱えて商売をしているわけです。

「お前の店の食品で腹を壊した。損害賠償しろ」と言うお客を恐れたスーパーが、食品の取り扱いを止めたらどうなるでしょうか?

これは極端な例ですが、店がリスクを負わないと困るのは、クレーマーではない普通のお客なのです。

だから、リスクを負う店は普通のお客に支持されるのです。

ちなみに、会社が大きくなるとリスクを負えなくなります。

上場してれば株主がうるさいし、そうでなくても管理部門はリスクを嫌う人の集まりです。厄介なことに、会社とともに大きくなるのが管理部門なんですね。

リスクを負うのは大手に対抗する手段の一つでもあるわけです。

     小宮秀一   
  コラム   

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